KhasyaReport Khasyabooks mini 2023-05
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ヒュースケンHenry Conrad Joannes Heuskenは日本へ向かう途中、セイロンのゴールでこう日誌に記した--- ああ、君ら文明諸国の人々よ、白い肌の人々よ。あなた方は両インドの先住民を野蛮人と呼びながら、あなた方自身が彼らにどれほど多くの紛れもない野蛮を重ねて来たことか。 あなた方がインドの人々を野蛮人と呼ぶとき、彼らに対して犯してきた、そしてこれからも犯すであろうとんでもない略奪行為を隠す言い訳として使っているのだ。[注]
ハリスの通訳兼秘書として江戸城にタイクンを訪ね徳川家定に謁見した日の夜、ヒュースケンはゴールでの思いを繰り返すかのように彼の日記にまた書き付けている--- この国の笑顔の絶えない子供たちの将来を西洋人は無残にも文明開化の欲望と引き換えに突き崩してゆく。ああ、この国の幸福を打ち砕き取り返しのつかない悪徳をお前らは持ち込むのだ[注]
日米通商条約が結ばれて後、ヒュースケンは2年半日誌を離れる。その間に何が彼に起こったか、資料では確認できない。1861年1月1日に彼は日誌を再開する。そして、その一週間後、薩摩藩サムライのテロリストに惨殺される。 ヒュースケンは西洋の悪霊を日本にもたらした。われら尊王の徒は彼を切り裂き攘夷するのだ。ヒュースケンを闇に紛れて襲ったイムタらはそう豪語する。え?、待って!ヒュースケンは日本の文化と暮らしと日本の人々をこよなく愛した人だったんだよ、… 日本政府(徳川政権です)はヒュースケンの葬儀を質素に整然と済ませたかったのですが、英仏が納得しません。ヒュースケンの葬儀は彼の自宅、善福寺の寺中寺院善行寺から遺体を土葬する光林寺まで西欧五か国の関係者、軍隊が中心になって葬列を作り、そこに日本政府(徳川政権です)の外交関係者が加わりました。葬儀行進の中心を担ったのはプロシアです。50名の海兵を江戸湾の艦隊から呼び寄せ音楽隊を整列させました。英仏蘭は護衛兵を集めました。これは葬列に参加した領事たちを反幕府のテロリスト襲撃から守るための処置でした。 ヒュースケンはオランダ系アメリカ人です。新興国アメリカの代表はハリス、だが西欧諸国とは一線を画していました。ヒュースケンの埋葬には参加しましたが、自身を幕府に近い位置におきました。軍事力を見せつけてテロリスト組織と日本政府(徳川政権です)を威圧する葬列行進には加わりません。ヒュースケンの妻(おふく)と二人の間の子供(不詳;男の子)は兵士が担いだ棺の脇を歩みました。 ヒュースケンの友人ハイネがその様子を画家の目を通して葬儀の図として残しています。ハイネが残した絵画の研究者は日本にいませんし、誰もこの母と子の姿に言及しません。絵の中の柳結びの後姿、それはおふくさんのけなげな意地の強さを知らせるハイネの筆さばきですが、誰もこの帯のことに言及しません。ハイネに触れるのはご法度でしょうか。ドレスデン五月蜂起という革命に失敗しドイツのザクセン王国を追われた無法者だったからでしょうか。流刑地シベリアを脱出してヨコハマを経由しアメリカへ逃亡し無政府主義者となったバクーニンの影がハイネにちらついて二の足を踏むのでしょうか。これもまた、「西洋の悪徳」を持ち込むことなのでしょうか。五月蜂起の時、バクーニンは革命の主導者となりハイネはその下にいました。 このヒュースケン葬儀の日から西欧各国の幕府への不満が更に膨れ上がります。徳川幕府転覆を狙うテロの実行犯イムタらの策略は成功したのでしょうか。 ペリー以降の日本開国の情勢を記した「ゑひすのうわさ・内海雑話」〔注〕の巻五にこうあります。
フランシス・ホールという貿易商は威勢のいいアメリカ人で日本での通商に身を乗り出していました。ハリスとは自由貿易で一致しても、ハリス条約と呼ばれる日米通商条約の内容には、開放港に反発していました。ハリスは神奈川開港を、ホールは横浜開港を主張して譲らず、互いに反発していました。ホールはヒュースケンの評判をこう記しています---
西洋の悪徳が日本に襲い掛かることを憂いたヒュースケン。こともあろうに彼は西洋を嫌悪し美しい日本の尊王を標榜するイムタらの餌食になった。なんとも皮肉なことがこの後に起こります。 テロルの暴徒イムタらは江戸幕府にお目こぼしを受け(たか)、彼らは一人として検挙されずにいましたが、英仏蘭プロシア各国はこれを激しく抗議し幕府を糾弾・拒絶します。テロの標的は、次は我身だと慄く各国外交使は江戸湾の艦隊を集め江戸砲撃の準備を始めます。幕府日本は急激に推移するこうした状況の悪化に溺れて各国との条約締結を早めることになります。そうか、イムタらは攘夷どころか、結果として幕府の進める開国を助けたのか。皮肉だな、これ。 ヒュースケン”久助”は「開国の使者」でした。しかし、西洋の悪徳を日本に招き入れるのが気にそぐわない。心にその悩みを持っていました。堰を切って開国の津波が日本を飲み込みます。通商条約が結ばれてから、西洋各国は名だたる外交の立役者を日本へ送り込み、権威を光らせ手段を択ばず自国への富の集積を図ろうとしています。近代資本主義は無敵でした。貧しいアメリカ移民ヒュースケンのゴールでの緒言など帝国資本を弄ぶ巨人たちには聞こえやしない。再生儒教で富国強兵をすすめ、文明開化でリフォームしたサムライたちの国はこの時からアポカリプスの約束の落日へまっしぐらに突き進みます。 2023-Oct-29、2026-July-12 |